垣谷美雨さんの『うちの父が運転をやめません』を読みました。
本のタイトルがストレート。
おそらく多くの中高年の悩みではないでしょうか。
小説を通して、社会問題を提起する垣谷美海さんの作品。
今回も読みごたえのある一冊でした。
「うちの父が運転をやめません」は…
- 高齢の親の運転が心配になってきた
- 今後の自分の生き方について考えたい
という方に読んでほしい本です。
目次
著者の『垣谷美雨』さんってどんな人?
垣谷美雨(かきや みう)さんのプロフィール
1959年、兵庫県生まれ。
明治大学文学部卒。
2005年、「竜巻ガール」で小説推理新人賞を受賞し小説家デビュー。
著書に『リセット』『結婚相手は抽選で』『七十歳死亡法案、可決』『ニュータウンは黄昏れて』『夫のカノジョ』『あなたの人生、片づけます』『老後の資金がありません』『女たちの避難所』『夫の墓には入りません』『姑の遺品整理は、迷惑です』『うちの子が結婚しないので』などがある。
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【うちの子が結婚しないので】最後は「女性の生き方」について考えさせられる本
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「うちの父が運転をやめません」の内容と感想
主人公はアラフィフ男性
主人公の雅志は、東京で暮らす地方出身のサラリーマン。
同い年の妻は都会育ちで、夫婦共働き。
妻は部長職に就いていて残業も多く、夫婦ともに忙しい生活を送っている。
不妊治療の末37歳で授かった一人息子は、高校生になったばかり。
高齢の両親が田舎で暮らしている。。。
という家族のお話です。
私がこれまで読んだ垣谷さんの作品は、女性の主人公ばかりだったので、男性目線で描かれたお話はとても新鮮でした。
本のタイトルから、父親の運転問題がメインの小説のように見えますが、実は、主人公の生き方に関する内容のボリュームがかなり大きかったように感じました。
年齢は明記されていませんが、37歳の時にできた子供が高校1年生ということは、52〜3歳。
ちょうどサラリーマンとしてのゴールが見えてしまって、仕事に対するモチベーションが保ちにくい時期ではないでしょうか?
うちの夫の姿と重ねながら、主人公の心の葛藤や変化を興味深く読みました。
田舎に住む高齢の親の問題
高齢の親の運転。
「お願いだから、大きな事故を起こす前に運転はやめて!」
子供の立場からするとそう思います。
でも、そんな簡単な話じゃないよ、という田舎暮らしの高齢者の問題がリアルに描かれていました。
なぜ運転をやめられないのか?
- 買い物や病院に行けない
- バス代が高い
- 行動範囲が狭くなる
- 人と会えなくなる
- 男らしさの象徴や父親としての存在意義を失う
- 自由を奪われたような気がして息が詰まる
田舎に住む人間にとって、車は命綱。
運転できないということは、不便なだけじゃなく、心のダメージも大きいということが伝わってきました。
どちらの問題も深刻です。
* * * *
主人公雅志が、父に運転の際に気をつけることを書いて壁に貼るという場面がありました。
とても参考になったので紹介します。
- 夜は運転しない
- 雨の日は運転しない
- 通学時間帯には運転しない
- 交通量の少ない時間帯を選ぶ
- 動きやすい服装で
- どちらがアクセルで、どちらがブレーキかを指さし確認する
- 目的地までの道順を前もって確認しておく
- 長距離は運転しない
- 睡眠はたっぷり
- 2時間運転したら休憩と運動
(引用:うちの父が運転をやめません P198,199)
50代からの生き方の問題
雅志はこれまでの人生を振り返り、自分の仕事や子育てについて後悔しきり。
田舎で暮らす高齢の父親が、車を運転する必要がなくなるようにとあれこれ考える中で、結局は、自分の生き方を根本的に変えることになります。
そんな雅志の心を大きく揺さぶった田舎の同級生と叔父さんの言葉が素敵!
<同級生、博之の言葉>
「わいらは子供の頃から、周りの大人に将来のためと言われて色々我慢したもんやけど、50代になった今でも未だに将来のために我慢しとると思わんか。いったい将来っていつなんじゃ」
「もしも60歳で死ぬって予めわかったら、お前、明日からどうする?」
<ガンを患い、死の床にいる叔父の言葉>
「80歳近くになった今、振り返ってみると、50代がいかに若かったかがわかる。わしみたいな病人になってから後悔しても遅いぞ。お前も後悔のない人生を歩めよ」
この2人の言葉は、とても印象的でした。
もし人並みに長生きできれば、定年後の人生も長く続きますが、そんな保証はどこにもない。
後悔のない人生を歩むなら、50代が決断の時なのかも。。。
雅志だけじゃなく、私の心もゆっさゆっさ揺さぶられました(笑)
また、田舎で育った雅志が、この歳になって再び田舎暮らしの魅力に気づいていくという点は、共感できました。
子供の頃のままの囲炉裏のある家、敷地を走り回る飼い犬、大きなすいかが冷やされた井戸、家の畑でとれた手作りの田舎料理…。
のんびりとした田舎の生活が目に浮かびます。
結局、自分が生まれ育った環境が心の原風景としてずっと残っているものなんだなぁと思います。
そこは、東京で生まれ育った奥さんとは分かち合えないものかもしれません。
社会問題がてんこ盛り
小説の中には、現代社会を象徴する言葉や社会問題、アラフィフ世代特有の悩みなどがギュッと詰まっています。
本当によく取材されていてるなぁと思います。
- 親の免許返納
- 共働き夫婦の子育て
- 不妊治療
- 仕事のやりがい
- 人生の目的
- 買い物難民
- 地方の過疎化
- バスの赤字路線廃止
- 早期退職
- 田舎へのUターン
- 子供の進路
- 卒婚・・・
きっと読む人によって、興味のポイントはさまざまですね。
「うちの父が運転をやめません」の感想(まとめ)
同世代の主人公の悩みが、自分や夫に当てはまることが多くて、今回も垣谷ワールドに引き込まれました。
登場人物がみんな温かいっていうのも魅力です。
話がうまくまとまりすぎて、非現実的な部分もあるけれど、読後はフワッと温かい気持ちになりました。
現代の社会問題がてんこ盛りの「うちの父が運転をやめません」
ぜひ一度読んでみてください!
「うちの父が運転をやめません」の情報
【書籍名】うちの父が運転をやめません
【著者名】垣谷 美海(かきや みう)
【出版社】KADOKAWA
【発行日】2020年(令和2年)2月21日
【ページ数】309ページ